栄の「栄能楽ビル」(名古屋市中区栄5)は9月末から、「若者に向け」物件を開放し新たな店舗が営業を始めた。名前の通り、4階に能楽堂があるというユニークな同ビルだが、その存在を知る人は少ない。
築40年の同ビルを管理する後藤商事の後藤邦泰さんは「本来なら、もう古い建物なので壊して建て替えた方がいいのかもしれないが、古いものを生かしながら新しく生かす『リノベーション』のことを知り、『うまく使ってもらえる人に生かしてもらう』ことに興味を持った」と話す。
「今空いてしまっている物件を新しく活用するなら、若い人、自分と同年代の方々にとって、『チャンスの場』になるようにしたい」と、5年ほど前から構想を練り始めた後藤さん。賃料を栄エリアでは破格の安さに設定するなど、さまざまなアイデアを織り交ぜていった。
「後は、どういったテナントさんに入ってもらえばいいか」と考えていた際、栄4~5丁目を中心に活動する「散歩廻」の代表を務める5丁目のセレクトショップ「タイムフォーリヴィン」(栄 5)の武山匡哉さんに相談する機会を得て、一気に動き出したという。
「武山さんに話をしたら、私の思いに賛同していただき、早速物件を見に来ていただいた。その後、武山さんのルートを通じてさまざまな方に物件を紹介をしていただき、今に至っている」と後藤さん。現在1階には、レコードショップと喫茶が併設した「喫茶デシベル」のほか、たこ焼き店、スポーツバーなど栄5丁目エリアで活躍する若者が運営する店舗を中心に入居者が決まり、既に開店している。
「これまでの大家は、テナントさんと話し合いをして店を作っていくことが少なかった」と振り返る後藤さん。「自分が関わる時には、これまでの慣例や概念を覆して、テナントさんと大家側がフィフティフィフティの関係を築いていきたいと思っていた。実際にデシベルさんとの店づくりは本当に楽しかった」とほほ笑む。「自分でも店づくりの参考にと、東京や大阪、神戸などに足を運んだりもした。同業の人から見たら『何でそこまで?』と思われるかもしれないが、テナントさんの声をちゃんと聞いて一緒に店づくりをしていくと、いいものができ上がることを今回強く感じた」
「どんどんテナントさんが有名になって、もっと大きい店に移っていってもらえてもうれしい。テナントさんがのびのびと営業できて、ちゃんと利益を生む。そうした環境を整え、バックアップできるところは一生懸命していきたい。ステップアップの場所になるのも歓迎」と後藤さん。
近頃は、人が集まり始めた同ビルを通りから見て、しみじみとうれしく思うことも多いという。「この辺りは人通りがまだまだ少ない。でもこのビルのように若い人たちの店が起点となって、この地域が活性化していくと本当にうれしい。まだまだ不安もあるが、日々皆さんに勉強させていただいている。栄5丁目に面白い店がたくさんあることを、より多くの人に知ってもらえるきっかけになれば」と期待を込める。