千種の書店「ちくさ正文館本店」(名古屋市千種区内山3)2階ホールで10月10日、アーティスト岡部昌生さんの展示企画「被爆70年祈念連携プロジェクト 岡部昌生『被爆樹に触れて』」が始まった。
岡部さんは1977(昭和52)年からアート制作を開始。対象物の上に紙を置き、鉛筆などでこすることで形状や模様を浮き出させる「フロッタージュ」と呼ばれる手法で多くの作品を発表している。来年8月から10月にかけて愛知県各地で開催される国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2016」への出展も決定している。
今回は広島の被爆樹をこすり取った「被爆樹に触れて」シリーズ、福島で制作を続けている「被曝(ひばく)つづける樹」シリーズを中心に、沖縄の元米軍基地の滑走路をフロッタージュした作品などを展示。被爆70年の節目に日本の近代以降、戦後の記憶を伝え、共有することを目指すプロジェクトとして、札幌、福島、東京、名古屋、広島、沖縄の6都市を巡回する。
9日夜には岡部さんと「あいちトリエンナーレ2016」港千尋芸術監督がトークイベントを開催。広島や福島での作品制作時のエピソードやトリエンナーレへの思いなどを語った。
岡部さんは「昨年、福島で放射線量を測った際、人間が防護服を着て活動する中で木々はずっと被曝し続けていることに気が付いた。福島の今を想起することで広島の出来事も風化させないようにできると考え、今年の冬から福島県各地の木々のフロッタージュを始めた」と話し、壁面の展示作品を一つずつ指し示しながら、制作時の苦労や現地での出会いなどを語った。
岡部さんのシリーズ成立に立ち会い、制作の旅も間近に見てきた港芸術監督。「6都市を横断する岡部さんの巡回展は、創造する人間の旅というトリエンナーレのテーマにもつながる。このプロジェクトが来年のトリエンナーレにもつながり、新たな出会いの輪に広がっていってほしい」と期待する。
岡部さんは「6つの街を巡り、それぞれの場所で考えながら、自分のやってきた美術活動を確認していきたい。戦後70年という年をどう考えるのか、それを表現するにはどうすればいいか。その考えた成果を、先々の展覧会で紹介していきたい」と話す。
その後、2人は来場者からの質問に答え、制作手法や福島の現状などについて話し、トークイベントは終了。サイン会を行い、閉店まで来場者と歓談した。
同ホールでは名古屋市内各地で開催中のブックイベント「ブックマークナゴヤ2015」の特別企画「岡部昌生図録展」を併催。岡部さんの作成した図録、著作を展示する。港芸術監督の著作も紹介する。
営業時間は10時~21時(日曜・祝日は20時まで)。入場無料。11月1日まで。