先月30日に最新作「領土」(新潮社)を出版した名古屋在住の芥川賞作家、諏訪哲史さんが12月4日、栄の書店「丸善名古屋栄店」(名古屋市中区栄3、TEL 052-261-2251)でサイン会を開いた。
諏訪さんは名古屋市出身。「アサッテの人」で第50回群像新人文学賞を受賞してデビューし、同作で第137回芥川賞を受賞した。最新作「領土」は「りすん」「ロンバルディア遠景」に続く4作目で、初の短編集。2009年から2011年にかけて発表された10編の小説がまとめられている。
初めて短編集を書こうと意識して取り組んだという諏訪さん。編集者と話し合いを重ね、2年半ほどの時間をかけながら書き上げていった。「1編目から10編目に行くまでに、一つの方向性を持って推移するように意図して書いた。小説の形式から遠いものは発表順序を後に持っていき、近いものは先に持ってきた。できれば最初の作品から10編目までを順番通りに読んでいただき、その上で短編集なのか、連作集または長編なのか、読者に判断してほしい」と話す。
今回は限りなく制約を外して書いたと諏訪さん。「僕の小説は実験的とよく言われるが、僕自身の中では、今まではかなり保守的に、ルールを守りながら、小説の枠の中からあえて出ないように書いていた。本作では本当にやりたかった形式にたどり着くため、自分の中から小説というルールを外していった。象徴的な部分は句読点の消失や字間の空き、改行の頻度など。句読点は実は近代の産物で、奈良時代の『万葉集』や平安時代などにはなかったもの。かつて豊穣な“音としての日本語”があったにもかかわらず、“小説とはこうやって書くものです”という教科書的なルールが近代になってできただけ。今回も実験的だという批評が多くなると思うが、僕としては日本語の原形に戻る、または回帰するイメージ」
短編集のタイトルになった「領土」という言葉には2つの意味があるという。「一つは僕のイメージや幻想の領土。どこまでが僕の世界なのかを探しにいく旅。もう一つは小説の領土。どこまでが小説なのかを探しにいく旅。両方の意味が込められている」
サイン会には、小説を購入したファン先着100人が集まった。諏訪さんが「できるだけ皆さんと話しながら、ゆっくりとしたペースでやりたい」と話しサイン会がスタート。諏訪さんは一人ひとりと言葉を交わし笑顔で握手。感謝の言葉を述べたり、質問に丁寧に答えたりしながら、ファンとのひと時を過ごした。