名古屋市出身で戦後唯一の総理大臣を務めた海部俊樹さんの自叙伝「海部俊樹回想録 自我作古(われをもっていにしえとなす)」が12月3日、人間社(名古屋市千種区今池1)から発売された。
海部さんは1931(昭和6)年に現在の名古屋市東区東桜で写真館の長男として生まれ、旧制東海中学校を卒業して上京。中央大学、早稲田大学を経て政治の道に入り、1960(昭和35)年に全国最年少で衆議院に当選。1989年に昭和生まれ初の内閣総理大臣に就任した。
同書は2014年6月から翌年3月まで中日新聞で57回にわたり連載された回想録をまとめたもの。少年時代の戦争体験から、宇野宗佑首相の突然の退陣後に最小派閥のナンバー2から首相となったてん末、湾岸戦争や政権交代など国内外が激動した時代の記憶、貴重な体験が語られている。
連載時に取材した同新聞社の垣見洋樹記者が編集を担当。書籍化に当たり、各章への加筆のほか、総理大臣を務めた当時の秘書官・折田正樹さんへのインタビューや年表などを付け加えた。海部さんの要望で書き下ろされた新章「語り切れなかった思い出」も追加されている。
製作を担当した樹林舎の山田恭幹さんは「海部さんは私が出版の仕事についた20代のころ、初めてインタビューをした人。東京の自宅に行って話を聞かせて欲しいと頼むと、『なんだ~、あんたも愛知か』と気さくな名古屋弁で応えていただき、率直な人だと好感を持った。今回、中日新聞の若い記者・垣見さんの文章が生き生きと海部さんの人柄と人間関係を描いているので、楽しんでいただけると思う。元駐英大使で国際法の専門家でもある折田さんにも、湾岸戦争で初めて自衛隊を海外派遣した海部さんの総理としての実績、能力について評価していただいた。憲法解釈で悩んだ当時の政治家、官僚たちの姿は、現在の世情を考える上でも参考になると思う」と話す。
仕様はB6判、232ページ。価格は1,512円。