大須にある中部地区唯一の寄席「大須演芸場」(名古屋市中区大須2)で11月30日より、主に大須で、ロックを取り入れた歌舞伎を演じている「スーパー一座」による公演「吉例 大須師走歌舞伎 桜姫松白狼」が行われている。
「吉例 大須師走歌舞伎 桜姫松白浪」は、江戸時代後期に活躍した歌舞伎狂言の作者「鶴屋南北(つるやなんぼく)」の作品「桜姫東文章」と、江戸時代幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎狂言作者「河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)」の白浪物(盗賊が主人公となる物語)を掛け合わせたもので、「スーパー一座」主宰の岩田信市さんが台本と脚本を担当した。音楽は、もともと座長の原智彦さんの知人で、主に名古屋で活躍するギタリストKei(ケイ)さんが担当した約60曲を使う。
公演は今回で20周年を迎え、座長の原さんは「20年前の最初の公演のときは、お客さんがくるかどうか、いちかばちかという気持ちだったが、絶対に面白いという自信があったので、最初から『吉例』(めでたいことを恒例とする)と付けた。好評で年々お客さんの入りは右肩上がり」と話す。開催当時から現在まで、客層は若い人から年配の人までと幅広い。「特に最近は若い人に伝統的な文化を知ろうと思う人が増えてきているようだ」(原さん)とも。
内容は、「お姫様だった女性が1人の男を追い、だんだん身を落とし最後は売春婦になってしまう移り変わりや、幽霊になっても好きな女性に恋狂う男の姿など、内容は濃い」(原さん)とし、「堅苦しいと思われがちな江戸時代だが、制限はあっても、もっとおおらかで自由な表現をしており、作り手側も受け手も今より自由で豊かだった」と話す。
また、江戸時代は、大きな舞台で遠く離れた席から見るのではなく、役者の目の動きや表情などがどの席に座っていてもよく見え、観客が一体となって楽しめる歌舞伎が主流であったことから、現代でも当時の雰囲気を再現するべく「ベストな300人~500人規模」(原さん)の大須演芸場を舞台に選んだという。
「歌舞伎というと多くの人は堅苦しいものだと思いがち。江戸時代の歌舞伎は、決して堅苦しいものではなく、常に新しいものを取り入れ進化し、誰もが楽しんで見られるものだった。スーパー一座では江戸時代の伝統を大切にしながら舞台にロックバンドを入れるなど、現代に合わせてアレンジし、より身近に感じてもらいつつ歌舞伎の楽しさを伝えていきたいと考えている」という。
20年間大須で公演を続けてきた原さんは、大須という街について、「30年前に大須に移り住んだころは、まだ昔の古き良き日本の風景が残る、映画のシーンのようないい街だった。幸か不幸か、最近は『全国で最も元気のある商店街』として脚光を浴び、昔の面影はなくなりつつある」と話す。「しかし若い人たちと話してみると、さまざまな『色』が混ざり合って面白い街になっていると思う。街はこうして変わっていくのだろう」とし、「商業的な店も少なくない大須だが、面白くないことをお金のために平気でやり続けられる人が集まるのではなく、純粋に面白いことを表現し続けることができる人たちがこれからもどんどん集まる街であり続けてほしい」と、大須への思いに愛着を込める。
「吉例 大須師走歌舞伎 桜姫松白狼」の公演は、歌舞伎を「身近なものに感じてもらえるように」と価格も低めに設定している。料金は、前売り=3,800円、当日=4,000円。チケット申込みは「スーパー一座」(TEL052-262-5955)まで。