「数年前に母が亡くなった時、東京で行った葬儀から帰ってきたその足で、なぜか急にテレビ塔に上りたくなり、行った思い出がある」と話し始めたのは、栄を中心にセレクトショップを経営する武山匡哉さん。「10月の肌寒い日だったけど、なぜか上りたくなった。その後すぐに仕事に向かわなければいけなかったが、少しだけテレビ塔の展望台に行き、静かな時間を過ごしたことで気分転換ができた」という。武山さんのように、テレビ塔がそれぞれの人の生活シーンにそっと寄り添っていることがよくある。
「今は名古屋駅に押されがちな勢いだが、基本的に名古屋の人は栄エリアが好きだと思う」と武山さん。長年、栄エリアでショップを経営しながら、名古屋のストリートカルチャーを見続けてきた武山さんは、1999年ごろからセントラルパークの清掃活動などさまざまな活動を行ってきた。そうした活動や自身の体験を通してこそ語られる武山さんのテレビ塔周辺、引いては栄エリアへ思いを語る言葉は力強い。
「テレビ塔とその周辺を囲む久屋大通公園は名古屋の中心に位置していて、最高のロケーション。その場所が多くの人に『夜歩くのは怖い』などと思われてしまうのはありえない。何とかしたい」。自身もクラブなどでDJをしたりするなど多くの名古屋を中心としたアーティストと交流を持っている武山さんだからこそ、テレビ塔の活用法として「テレビ塔に何か一つスペースを作って、ライブなどができるハコにしたらいいのでは。もっと人が集まり、文化も発信できる」と提案する。「都心の真ん中で遊べるスペースができるのは素晴らしいこと。イベントを打って無理やり人を呼び込むことをやった方がいい」。
「名古屋にはセンスのよいアーティストが多くいる。テレビ塔周辺はどういったブレーンでどういったことを発信していくかが大切。テレビ塔を使い、名古屋の一押しのイベントを定期的に行うことができたら、街の新たな魅力につながる」と期待を込める。「夜にもっと遊ぶ人を増やすためには、インフラの整備も必要。市バスの路線などをもう少し戦略的に見直したりする必要がある」とも。「河村市長が『公園に虎を走らせたい』と言ったことがあったが、それくらい突拍子もないことを言うのはいい事だと思う。保守的になってしまっては、何も面白いことが生まれないから」と笑う。
「テレビ塔会社には、どういった利益が出ているのかをしっかり示すことも大切」と武山さん。「面白いことにきちんと利益がついてくる土壌を名古屋全体で作っていかない事には、この街は駄目になってしまう。ランドマーク的な価値は大きいテレビ塔だからこそ、テレビ塔自体でお金を回す仕組みを考えないといけないのでは。そのためには市の柔軟な対応も必要になってくる」
文/サカエ経済新聞 青木 奈美