国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」を豊富なデータやレポートで解説した書籍「トリエンナーレはなにをめざすのか 都市型芸術祭の意義と展望」が8月8日、水曜社から発売された。
著者の吉田隆之さんは愛知県職員。国際芸術祭推進室の一員として2010年の第1回あいちトリエンナーレで街中(まちなか)会場となった長者町地区の準備・開催を主に担当した。推進室の職務を離れてからも、京都大学大学院で公共政策を学び、東京藝術大学大学院で文化政策やアートを研究。コーディネーターとしてアート活動やまちづくりに関わりながら、一市民の立場で2013年の第2回トリエンナーレに関わった。
同書は国内外の芸術祭を比較し、あいちトリエンナーレの政策決定から開催までの過程や実績を豊富なデータや資料で紹介。2回にわたり行われた芸術祭を、スタッフ、市民などさまざまな視点で分析し、その成果と今後の課題を解説。都市型芸術祭の目指すべき姿を提言する。
吉田さんは「県職員、一市民として関わったトリエンナーレをドキュメンタリータッチで書いたアート日記。数多くあるほかの芸術祭と均質化しないための処方箋(せん)にもなっている。トリエンナーレの面白さ、盛り上がりを体感し、これを長く続けていくためにはどうすればいいのかを考えた本」と話す。
29日には栄の「丸善名古屋本店」(名古屋市中区栄3)6階で、出版記念トークイベントを開催。来年8月から開催される「あいちトリエンナーレ2016」のキュレーター服部浩之さんと吉田さんが対談した。出展作品のスライド写真などで過去2回のトリエンナーレを振り返り、来年の展開や都市型芸術祭のあり方について意見を交換した。
「長者町では会期中の盛り上がりはもちろん、トリエンナーレが終了した後もコミュニティーが生まれてアート活動が続いている」と吉田さん。「観客、参加者の満足度が高かったとしても、県知事が変わったり、経済情勢が変わったりした時には、今後のトリエンナーレ継続が困難になるかもしれない。街で起こったこと、生まれたことを伝えていくことが大切。多くの人が関わって市民の支持を広げていくことが、トリエンナーレの陳腐化、均質化を防ぎ、継続につながっていくはず」と話した。
「過去2回に参加した方々の話を聞ける大切な機会になると思い、対談させていただいた」と服部さん。「各地の芸術祭ではいろいろなことが起こっているはずだが、当事者以外に可視化されることは意外に少ない。愛知県や長者町の熱気が本として形に残ることはすごく大事。来年のトリエンナーレでは長者町のほか、岡崎市、豊橋市も美術館ではない街中で展開する予定。それぞれの都市でどのように人が繋がり、物事が起こっていくのか、すごく楽しみ。それを引っ張り出す努力をしていきたい」と話した。
2人は観覧者からの質問に、それぞれの視点で丁寧に回答。愛知県各地が来年に向けてさらに盛り上がっていくことを呼び掛け、トークイベントを終了した。
仕様はA5判、304ページ。価格は3,024円。