栄の映画館「名演小劇場」(名古屋市東区東桜2)で4月8日、公開中の映画「世界でいちばん美しい村」の舞台あいさつが行われ、石川梵監督とゲストの名古屋在住の写真家・小原玲さんが登壇した。
同作は写真家・石川梵さんの初監督映画で、2015年4月に約9000人の犠牲者を出したネパール大地震の震源地にあるラプラック村の人々を追ったドキュメンタリー。石川さんは震災直後、ジャーナリストとしてヒマラヤ奥地に入り、壊滅した村を取材。現地の少年アシュバドル君と知り合ったことをきっかけにドキュメンタリー映画の製作を決心した。アシュバドル君の家族や村でただ1人の看護士ヤムクマリさんに密着し、助け合いながら生きる人々の姿や村の生活をフィルムに収めた。
石川さんはAFP通信のカメラマンを経て、1990年からフリー写真家として活動。写真集「海人」で日本写真協会新人賞、伊勢神宮の神事など各地で祈りをテーマに撮影した「世界の祈り」シリーズでドキュメンタリー写真大賞を受賞。近年は世界の空撮を通して地球の歴史に迫るなど精力的な活動を続けている。
小原さんは報道写真家として国内外の雑誌を中心に活躍後、動物写真家に転身。現在は名古屋を拠点に、各地の動物を撮影しながら、アザラシや流氷の取材から取り組み始めた地球温暖化についての講演活動などを行っている。
登壇した石川監督は「震災後の本当に孤立無援で誰も助けがいない中で、目をきらきらさせたアシュバドル君に会った。写真を撮って帰れば仕事は終わりだったが、それはできなかった。まず支援から入り、その延長戦上で、映画という方法を採れば、もっと大きな支援が長い期間をかけて受けられるのではないかと考えた。撮影を始めてからは、そんな思惑とは別に村の人々に引き込まれていった。30年間世界中で写真を撮っているが、あんなきれいな瞳をした子どもたちはなかなかいない」と映画制作の経緯を話す。
石川さんとは30年来の友人の小原さん。「本当に優れた報道写真は悲惨なものだけではなく、必ずその中に見える希望や人間の美しさを撮る。石川さんの映画はまさにそれ。あの悲惨な現場で美しいものを見つけてきた。全体を映すときもすごいが、見せたいものにぐっと寄る石川さんのカメラは素晴らしい」と絶賛する。
小原さんは「多くの同業者から写真家からビデオジャーナリストに変わっていく中、石川さんはずっと写真で頑張っていた。その彼がこのテーマを映画にしたのは、どうしても映像で伝えたいものがあったからだと思う。例えば『不都合な真実』のように、映画には社会を動かす力がある」と話す。石川さんは「テレビの短いニュース枠のような断片的な映像ではなく、最初から最後まで僕の思いを込めたものを撮りたかった。一人なら少ない金額で長期間の取材ができるし、自分の世界観で完成させることができるので、写真家の行為にとても近い映画作りだった」と振り返る。
ラプラック村の星空について「200キロメートル先にある街の明かりでも空に反射するので、360度人工の光が無い場所は世界中を探してもなかなか見つからない。本当に美しい星空だった」と小原さん。石川さんは「地震で遠くの村まで全部の明かりが消えてしまったから、あれほど美しく星が見えた。陸前高田でも、明かりが無くなって初めて星の美しさに気が付いたと、大工の方に言われたことがあった。多くのものが無くなってしまったが、星のように命は輝いていることを伝えたかった」と思いを語る。
最後に石川さんは「べたべたしないけれど深いところで結ばれている家族の絆。悲しい時には皆で悲しみ、励まし合い、共に前に向かうコミュニティーの姿。始めは支援からだったが、いつの間にかこの村の素晴らしさを皆に伝えたいという思いが大きくなった映画。彼らは何も持っていないけれど、とても幸せそう。映画を見た皆さんに、幸せとは何かを考えていただけたら」と呼び掛ける。
舞台あいさつ終了後、石川さんはサイン会を開催。サインを書きながら、来場者一人一人に感謝の言葉を述べた。