名古屋出身の画家・水谷勇夫の舞踏との関わりを解説した書籍「水谷勇夫と舞踏-『蟲(むし)びらき』をひらく-」が8月7日、人間社(名古屋市千種区今池1)から発売された。
水谷勇夫は1922(大正11)年、名古屋市生まれの画家。近代合理主義社会が抱える人間の抑圧などをテーマに、従来の日本画の枠組みに収まらない作品制作を行い、戦後の日本美術に足跡を残した。優れた画業とともに、暗黒舞踏の創始者とされる土方巽の舞台芸術を担当し、発展に大きな役割を果たした。
同書は、愛知県美術館(東区東桜1)の企画「水谷勇夫と舞踏」展の開催に合わせて編集・出版。展示では、1988(昭和63)年に東京・池袋で初演され、1990(平成2)年に大須の七ツ寺共同スタジオ(中区大須2)で再演された土方巽追悼の意を込めた大野一雄の舞踏公演「蟲びらき」のために水谷勇夫が制作した舞台装置を再現。関連するチラシなどの資料が展示されている。出版に当たり、息子でアーティストの水谷イズルさんが全面協力。同美術館の担当学芸員・越後谷卓司さんの監修による展示の図録としての役割に加え、元名古屋ボストン美術館館長で美術・舞台評論家の馬場駿吉さん、七ツ寺共同スタジオ元代表の二村利之さんら上演当時を知る関係者の寄稿により、水谷勇夫と舞踏との関わりについて理解を深めることができる書籍となっている。
編集を担当した樹林舎の折井克比古さんは「水谷勇夫は美術だけに収まらず、あまりにも幅広いジャンルで活躍したため、その全貌(ぜんぼう)を捉えることが難しい。今回、当時を知るさまざまな方に協力を頂き、県美術館で展示された『蟲びらき』の舞台装置を中心に、舞踏との関わりを一冊にまとめることができた」と話す。
仕様はB5判、48ページ。価格は1,100円。
企画展は4月3日の展示開始から3日目で新型コロナウイルス感染拡大防止のために一時休止となったが、現在は展示を再開している。開館時間は10時~18時(金曜は20時)。観覧料は一般500円、高校・大学生300円、中学生以下無料。9月6日まで。
折井さんは企画展について「約30年前の舞台装置が再現された展示空間に入ると、その大きさに圧倒される。舞踏ファンであれば、その前で思わず踊りだしたくなるかも」と来館を呼び掛けた。