栄の「名演小劇場」(名古屋市東区東桜2)が、1月9日に開館50周年を迎えた。
現在、2スクリーンを有しさまざまな映画作品を上映する同館は、演劇公演を行う劇場として産声を上げた。戦後、劇団との相互協力の下、鑑賞者が会費制によって演劇の企画運営を行う自主的演劇鑑賞組織「名古屋演劇同好会」(通称「名演」)が名古屋で発足。名古屋市内のホールで演劇公演を企画してきた。活動を通じて「自由に演劇公演できる独自の劇場を所有したい」との考えに至った同会は、劇団代表などの協力を得て劇場運営会社「名演会館」を設立し、1972(昭和47)年に「名演会館ビル」を完工した。ビル建設の呼び掛け人には、演劇界の重鎮とされる著名な演劇人たちも名を連ねたという。
設立当時から在籍する名演会館社長の島津秀雄さんによると「以前この場所には、興行にやってきた劇団員が常宿として利用する旅館があった。旅館経営者から土地の提供を持ち掛けられたことが、ビル建設の後押しとなった」と話す。
地上5階建てのビルの4・5階を吹き抜けにし、演劇公演を行う劇場「名演小劇場」を設けた。当初、劇場は1階に設けることも検討されたが「避難経路の確保など、当時の建築基準法・消防法に則った設計となると、上層階に劇場を置くほかなかった」(島津さん)。耐震・耐久性を高めるため、柱や梁(はり)を斜めに組み合わせる工法を採用した。「外壁や館内の天井を見ると、正三角形が連なるように筋交いや梁が渡されている。補強のための工夫が結果として装飾的な特徴にもなった」と島津さんは話す。
劇場では演劇や落語を上演。夏休みの時期には人形劇や児童劇、映画の上映など子ども向けの企画も催した。公演のない時期には、市民主催の映画祭の会場としても利用されたという。「公共ホールなどがなかった時代に、演芸をなりわいとする人はもちろん、それを楽しむ人たちも当館を広く利用した」と島津さんは当時の様子に思いをはせる。
しかし名古屋市各区に公共ホールができ始めると、劇団や市民の利用が減少傾向に。劇場をどのように存続していくか検討する中で、同館は映画上映に活路を見いだした。劇場を映画館の仕様に改め、2004(平成16)年には1階フロアにもスクリーンを設置。ミニシアターとして地位を築いてきた。
2020年には新型コロナウイルス感染拡大に伴う休業要請を受け、休館を余儀なくされた。時には大きな決断を迫られる機会もあった50年を振り返り、島津さんは「いつ消えるかも分からない、不安定にゆらぐ文化のともしびを、かすかながらもともし続けてこられたのは、ひとえに支えてくださる人々がいたから」とほほ笑んだ。