映画と野球をテーマに名古屋の昭和時代の風景を紹介した書籍「なごや昭和写真帖(ちょう)キネマと白球」が3月10日、風媒社(名古屋市中区大須1)から発売された。
同書は、1946(昭和21)年に創刊し、2008(平成20)年に休刊するまで、60年以上にわたり名古屋の大衆文化の動向を報じ続けた新聞「名古屋タイムズ」に掲載された記事から、映画と野球に関するものをまとめたもの。同紙の記事資料を保存、管理する「名古屋タイムズアーカイブス委員会」が、豊富な記事と写真の中から2つのジャンルを選んた。
第1部「映画編」は、広小路、大須、名駅など名古屋市内にあったさまざまな映画館、華やかな映画看板がある街の風景、東海地方で行われた映画ロケや当時ならではの映画宣伝の様子などを伝える。第2部「野球編」では、名古屋市内の野球場でのプロ野球の盛り上がり、来日した米国のプロチーム、昭和20年代に人気を集めた女子プロ野球などを紹介する。野球を題材にした映画の解説や当時を知る人のインタビューなども掲載する。
編集、執筆を担当した同アーカイブス委員会の長坂英生さんは、元名古屋タイムズ社会部デスク。大量のアーカイブの中から、400枚を超える写真を選び出した。「終戦後、軍国主義から解放された大衆が熱狂したのが映画と野球。大衆紙の名古屋タイムズは創刊時からこの二大娯楽を積極的に報道している。初めは映画の写真集を企画したが、まとめるうちに映画会社が野球チームを持ったり、野球映画が製作されたりするなど、映画と野球の蜜月に改めて気づいた。二大娯楽をテーマに、写真中心にまとめることで当時の名古屋の大衆の息吹を分かりやすく伝えられると考えた」と制作の経緯を話す。
写真や記事から昭和時代の盛り上がりを感じ、長坂さんにとって楽しい編集作業だったという。「昭和30年代前半の最盛期には、名古屋市内の映画館は140館を超えた。この数は人口比で日本一。そのほとんどが個人経営で、ちょっとした商店街には2、3館があり、ご近所の人が楽しんだ。映画のロケも頻繁に東海地方で行われた。今も映画は人気だが、映画文化のありようはまるで違っていた。野球は大須球場や鳴海球場といった今はない球場でもプロ野球が開催されていたし、戦前から中高大のチームも強豪ぞろいだった。女子プロ野球もあり、野球文化に多様性があった」と話す。
長坂さんは「企画から完成まで時間はかかったが、今の映画ファン、野球ファンにも楽しめる本になった。名古屋は映画王国だったし、野球王国だった。この本から、名古屋には熱くて、はっちゃけた大衆文化があったことを知ってほしい」と同書の魅力をアピールした。
仕様はA5判、215ページ。価格は1,760円。