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エリア特集2016-08-22

現代アートの祭典「あいちトリエンナーレ2016」 世界から愛知に創造する人々が集う

 8月11日、3年に1度の国際芸術展「あいちトリエンナーレ2016」が名古屋市を中心とした愛知県内各地で始まった。今回は栄地区で展示・上演する作品を中心に見どころを紹介する。

◎あいちトリエンナーレとは?
トリエンナーレの意味は「3年に1度」。第1回は2010年に愛知芸術文化センター(以下、芸文センター)、名古屋市美術館や長者町、納屋橋などを会場に、「都市の祝祭 Arts and Cities」をテーマに開催。24の国・地域から国内外131組のアーティストが参加し、572023人の来場者が最先端の現代アートと街なかを舞台にした祝祭空間を体験した。

 2013年開催の第2回は「揺れる大地-われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活」をテーマに、34の国・地域から122組のアーティストが参加。会場は名古屋市内各地に加え、岡崎市内でも開催。626842人が来場し、東日本大震災を含む激動する世界を繊細にとらえたアーティストの取り組みを目撃した。

 第3回のテーマは「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」。写真家・著述家で、群衆や記憶など文明論的テーマを持ちつつ、研究、作品制作、キュレーション(展覧会の企画)などで幅広い活動を行っている多摩美術大学美術学部情報デザイン学科教授の港千尋さんを芸術監督に招へい。現在から未来まで、人が創造しながら旅をしていくイメージをキャラヴァンという言葉に託し、愛知県内の美術館や劇場、街なかの会場が、世界中のさまざまな人が集う場になる74日間を目指す。会場は名古屋市、岡崎市に加え、新たに豊橋市に拡大。過去最大となる38の国・地域から119組のアーティストが愛知に集結し、先端的な現代美術、ジャンルを越境する舞台芸術を展示・上演する。(写真=港千尋芸術監督)

◎現代美術(愛知芸術文化センター)
 現代美術は国内外から85組のアーティストが出品し、最先端のアートを紹介する。栄では芸文センター、名古屋市美術館のほか、長者町、栄のビルなどが会場となる。今回はトルコ、ブラジルに拠点を置くキュレーターの視点が加わったことで、中近東や中南米などから日本で知られていない実力派アーティストが多数、参加。積極的に愛知県内のリサーチを重ね、滞在制作に取り組む国内外の多様なアーティストたちの情熱が生み出す迫力とエネルギーに満ちた作品群が、各会場で存分に楽しめる。
 芸文センター10階の愛知県美術館に入館するとすぐに、壁面を覆うジェリー・グレッツィンガーさん(アメリカ出身)の作品を見ることができる。1963年から50年間にわたりアクリル絵具、マーカー、色鉛筆などで描かれた想像上の都市の地図は、誰も知らない新大陸のようでありながら、微細に描き込まれた絵の密度に現実の都市を超えた確かな存在感を伝えてくる。アート学んだ経験がなく、落書きのつもりで描き始めたというグレッツィンガーさんが、自らに生まれた創作意欲のままに生み出し、今もアップデートし続ける大作は、今回のトリエンナーレを象徴する作品だ。(写真=ジェリー・グレッツィンガー 愛知県美術館10階)

 岐阜県出身で東京を拠点に活動する大巻伸嗣さんは愛知県美術館10階のほか、栄会場、豊橋市PLAT会場の3カ所に出展。名古屋市内の展示会場をつなぐベロタクシー、PR用のラッピングカーのデザインも担当した。愛知県美術館では一辺が15メートル以上ある展示室の大きな空間を、微細な鉱石の顔料などで描いた花模様で埋め尽くす作品を出展。顔料は固着させていないため、多くの来場者が鑑賞に訪れることで少しずつ元の形から変化していき、その過程そのものも作品となる。(写真=大巻伸嗣 愛知県美術館階10階)

 続いて8階の作品から紹介。西尾美也さん(奈良県出身)と静岡県に拠点を持つ403architecture [dajiba]による「パブローブ」は、観客参加型の実験的アートプロジェクト。ギャラリーに一般から募集した服を展示し、貸し出し、リメーク、イベントなどさまざまな活動を展開。トリエンナーレ来場者の誰もが利用できる公共のワードローブとして、服を介した新しいコミュニケーションの場の実践を試みる「服の図書館」。ハンガーラックを使って壁や天井に展示された大量の衣服は、日用品の集合でありながら、鑑賞する者に不思議な活力、活気を感じさせる。(写真=西尾美也+403architecture [dajiba] 愛知県美術館8階)

 味岡伸太郎さん(愛知県出身)の作品は愛知県が接する県境の70カ所の断層部分から採取した土を展示。愛知の地理的な特徴をダイレクトにつかみだした、この地での展覧会ならではの注目作。アーティストによる地質調査が生み出した土のグラデーションと質感に、多くの来場者が足を止めて見入っていた。(写真=味岡伸太郎 愛知県美術館8階)

同芸術祭は美術館内であっても、ホワイトキューブを使用しない作品が多数展示されるのが特徴。ヴァルサン・クールマ・コッレリさんは10階中庭と12階屋上庭園に作品を展示。瀬戸の粘土や豊田の竹といった愛知の天然素材や再生パルプなどを使い、大地のエネルギーを造形化した。(写真=ヴァルサン・クールマ・コッレリ 愛知県美術館12階屋上庭園)
◎現代美術(名古屋市美術館)
 名古屋市美術館に着いたら、館内に入る前にジョアン・モデさん(ブラジル出身)の作品「NET Project」を見てほしい。そして十分に見た後に、糸を手に取り作品に参加してほしい。この作品は鑑賞者が参加して、さまざまな素材と色の紐を結びつけていくことで、形を変えていく。岡崎、豊橋でも同様に展開されていて、会期終了1週間前から、3つの作品が芸文センターに展示される。(写真=ジョアン・モデ 名古屋市美術館)


 岡部昌生さん(北海道出身)は、対象物の上に紙を置き、鉛筆などでこすることで形状や模様を浮き出させる「フロッタージュ」と呼ばれる手法で、未だ戦争の爪痕が残る沖縄・伊江島の建物で制作した作品を展示している。岡部さんは芸文センターでは広島・福島の被爆樹/被曝樹、豊橋会場では同地区の旧飯田線跡などで制作したフロッタージュ作品を展示。場所を巡りながら地域の歴史を写し取っていった作品は、今回のトリエンナーレのテーマを体現した創作と言える。(写真=岡部昌生 名古屋市美術館)

ライ・ヅーシャンさん(台湾出身)の作品を鑑賞した体験は、ほかにどれだけ多くの作品を見たとしても印象に強く残るだろう。鑑賞者はさまざまな物が散在した空間を、壁に沿って取り付けられた幅の狭い板の上を歩きながら見る。自分自身が作品空間に存在していることが強く意識され、他の鑑賞者からは作品を構成する一部として見られる。鑑賞する行為、普段あたりまえに思っている行為を考えさせるインスタレーション。
(写真=ライ・ヅーシャン 名古屋市美術館)





◎現代美術(まちなかでの展開)
 同芸術祭の特徴の一つ「まちなか展開」は、過去2回の会場となった長者町地区、栄地区も中央広小路ビルに加えて旧明治屋栄ビル、損保ジャパン日本興亜名古屋ビルなどでさまざまな作品が展示されている。

 インドネシアのアーティスト集団「ルアンルパ」は、長者町の堀田商事株式会社に「アーバンカルチャー」「新たなスペース」をテーマにした「ルル学校」を開校。メンバーが同ビルに長期滞在し、募集したスクール参加者たちと、生徒、講師の立場を入れ替えながら、それぞれの知識や技術をレクチャーし合う。(写真=ルアンルパ 長者町会場)


 八木兵錦1号館、中央広小路ビルを拠点に展開する山田亘さん(愛知県出身)の「大愛知なるへそ新聞」。街の中に疑似的な新聞社を立ち上げ、記者希望者を募り、そこに住む人々から話を聞いて記事を執筆・編集。街に生きる人々の記憶を取材して、いろいろな時代に散らばった過去のさまざまな思い出や体験を、新聞記事の体裁で現在進行形の出来事として報道していく。紙面は少しずつ内容を更新しながら発行・配布されていく。
(写真=山田亘 長者町会場)

◎映像プログラム
 映像プログラムは「旅」をテーマにした劇映画、実験映画、アニメーション、ドキュメンタリーなど、質量ともに充実した多彩な32作品が集結した。愛知県出身で世界の主要な映画祭で高い評価を受ける山村浩二さんの短編や、2016年アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたシーロ・ゲーラさん(コロンビア出身)の「彷徨える河」などの注目作が芸文センターや地下鉄伏見駅旧サービスセンターなどで上映される。

◎舞台芸術(パフォーミングアーツ、プロデュースオペラ)
 最先端の現代アートとともに、世界最高峰のパフォーミングアーツ(身体表現による舞台芸術)が見られることも、同芸術祭のもう一つの大きな特徴。ダンス、音楽、映像といったジャンルを行き来するボーダーレスで先鋭的な1013作品が上演される。ダンサー、演出家として世界的に活躍する勅使川原三郎さんが演出、美術、照明、衣裳を担当するプロデュースオペラ「魔笛」など、今回も見どころ満載のラインナップとなった。(写真=勅使川原三郎 (C)Norifumi Inagaki)

 今回は新たな試みとして作品を連続して上演する「レインボーウィークス」106日~1023日)を設定。トリエンナーレ期間中に舞台芸術による大きな盛り上がりを作り出す。

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11日~14日にはオープニングアクトとして、振付家ダニ・リマさん(ブラジル出身)のカンパニーによる「Little collection of everything」を上演。4人のダンサーが舞台上に散らばる100を超える日用品を使い、何気ない仕草や言葉の集積の中に日常を再発見していく明るく詩的な作品。カラフルな物たちと小気味よい言葉、そして何より表現力豊かなダンスで、笑いに満ちた大人も子どもも楽しめる作品だった。(写真=「Little collection of everything」 愛知県芸術劇場)
◎さまざまな切り口の企画
 毎回、「キッズトリエンナーレ」の名称で行われてきた子ども向けの取り組みや、アートの普及・教育プログラムは今回もさまざまな形で行われる。

 芸文センター12階には、光、かたち、色など美術を構成する要素を直観的に体感する装置で、来場者が作品鑑賞に際して触覚や視覚を研ぎ澄まし、頭と目と身体の準備運動をする「ダミコルーム」と、子どもから大人まで自由に参加して用意された材料や道具で創作活動を楽しめる「キャラヴァンファクトリー」を設置する。(写真=ダミコルーム 愛知芸術文化センター12階)

作品についての理解を深めるための「こどもキャラヴァン」「かぞくキャラヴァン」などの鑑賞プログラム、シンポジウムやアーティストトークなど、一般向けのレクチャープログラムも期間中、さまざまなテーマで開催する。

 新たな企画として、トリエンナーレのテーマやコンセプトを支え、出展作品を補完する展示やレクチャーなどさまざまな形を持つ8つの展覧会「コラムプロジェクト」も行われる。

 参加アーティストの作品を巡回展示する「モバイル・トリエンナーレ」は設楽町田口特産物振興センター、大府市勤労文化会館、一宮市博物館、安城市民ギャラリーの4カ所で開催。2440点の作品展示に併せ、ガイドツアーやワークショップなども行う。

◎アートの祝祭空間を旅しよう
 巨大な規模の芸術祭だけに、最新のアートを鑑賞する、世界のさまざまな視点を知る、愛知の魅力を再発見するなど、楽しみ方は一つではないだろう。幅広い創作を受け入れるテーマであり、展示される作品群は膨大だが、過去2回の開催を経て、コラムプロジェクトなど大小さまざまな形で作品をつなぐ方法も考えられている。地球の裏側ブラジルで行われているスポーツの祭典を映像で楽しんだ後は、同じ中南米ほか世界中から集まったアートを間近に眺め、スポーツ、アート、人の心を揺さぶる文化について考えてみるのも、この夏ならではの楽しみ方だ。わたしたち人間を感動させる文化の一つの極みは今、間違いなく愛知で見ることができる。ぜひ「あいちトリエンナーレ2016」が生み出すアートの祝祭空間の中を旅してほしい。
(竹本真哉)

あいちトリエンナーレ2016

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