名古屋パルコ東館(名古屋市中区栄3)8階の映画館「センチュリーシネマ」(TEL 052-264-8580)ほかで11月17日から、映画「その夜の侍」が公開される。公開に先立ち赤堀雅秋監督が来名し、会見を開いた。
同作は赤堀監督が所属する劇団「THE SHANPOO HAT(ザ・シャンプーハット)」が2007年に上演した同名戯曲を映画化。自ら脚本・演出・主演を務めた代表作で映画監督に初挑戦した。2人の人気俳優、堺雅人さんと山田孝之さんが初共演することも注目の作品だ。
小さな鉄工所を営む中村(堺雅人)は5年前のひき逃げ事件で妻を亡くして以来、深い喪失感とともに虚無的な日々を過ごしている。ひき逃げ犯・木島(山田孝之)は刑期を終えて出所したが、彼の元には「復讐(ふくしゅう)決行日」までをカウントダウンする匿名の脅迫状が届くようになる。5回目の命日の夜、2人はついに対峙(たいじ)する。
最初は脚本のみで、監督は他の人が担当するはずだったという赤堀監督。「舞台の脚本にほれ込んだプロデューサーに声を掛けられ、映画用に書き直す所から始まった。その後、作品があまりに自分に一体化しているという理由で、監督もやってほしいと言われた。プロデューサーにとってギャンブルだったと思う。最初は尻ごみする部分もあったが、挑戦を決意した」と振り返る。
俳優としても映画「マイ・バック・ページ」「モテキ」などに出演している同監督だが、舞台で自ら演じた主人公・中村役には堺さんを選んだ。「堺さんはシャープで器用なイメージがあり、素朴な中村には反する気がしていた。しかし、直接会う機会があり、話してみるとフィットする感じがあった。撮影中は逐一、話し合って進め、堺さんのリアリティーが持てる人物にしてもらった」
山田さんが演じた木島は、暴力的な行動の内面に底知れない孤独を抱えた人物。「木島はただ単に粗暴で下世話なのではなく、カリスマ性を内包している。俳優なら悪役っぽく演じたくなる役だが、リアリティーのある、その辺にいる人物として演じてもらった。山田さんは頭がいい人なので、理知的な部分が漏れないように気を付けた」
初メガホンの感想を問われた監督は「初めてのことなので、まだ客観視できない。記憶を無くしてしまうくらい無我夢中に取り組んだ」と笑顔。「今まで積み上げてきたことで人間を表現することに演劇と映画の違いはないが、一つのシーン、一つのカットにカメラ、照明など、それぞれのプロフェッショナルが向かう姿に感動した。とても幸せな経験だったので、安易には言えないが、またやりたくなると思う」と話した。
複雑な内面を抱えた2人の男と、それを取り巻く人々の極限の物語。監督は「単なる被害者と加害者の対決だけの話にはしたくなかった。分かりやすいメッセージがある作品ではないので、映画を見て戸惑う人もいると思う。この物語の出来事を対岸の火事ではなく、自分たちに起こりうることだと思って見てもらえたら」と話し、作品をPRした。