栄の映画館「伏見ミリオン座」(名古屋市中区栄1)で6月27日から、映画「きみはいい子」が公開される。公開に先立ち、呉美保監督が来名して会見を開いた。
昨年、「そこのみにて光輝く」で「モントリオール世界映画祭」最優秀監督賞、「キネマ旬報ベストテン」監督賞などを受賞した呉監督の最新作。「坪田譲治文学賞」受賞、2013年「本屋大賞」第4位となった中脇初枝さんの同名小説が原作。小さな街を舞台にいじめ、幼児虐待、認知症などさまざまな問題を抱えて苦しむ人々の姿を描く再生と希望の物語。出演は高良健吾さん、尾野真千子さん、池脇千鶴さんら。
小学4年生を受け持つ新米教師・岡野(高良さん)は、真面目だが経験不足でいじめや学級崩壊に対応できない。親に虐待された過去を持つ雅美(尾野さん)は、娘への虐待をやめることができない。街では、いろいろな悩みや問題を抱えた人々の暮らしが交錯する。
呉監督は「プロデューサーから映画化したいと声が掛かり、原作を読んだ。読んでいる時は映画化のことを忘れてしまうくらい引き込まれ、胸が熱くなった。大切な部分だと思ったのは、無理のない一歩が描かれていて、大げさじゃない救いがあること。最後に奇跡が起こってハッピーエンドになるとか、急に人が大きく成長するとかではなく、日々の営みと、等身大の成長の大切さを感じた。中脇さんとは撮影に入る前に何度か会って、そこは守りますと伝えた」と映画化の経緯を話す。
幼児虐待、いじめ、独居老人など多くの社会問題が描かれた本作。原作の5短編の中から3編を選び、群像劇を作り上げた。「毎日、テレビや新聞でいろいろな事件を目にするたび、その5、6行の記事に込められた人たちの人生がとても気になる。決して人ごとではない。この作品の登場人物は、まだ事件まではいっていないが、そこに結び付くかもしれない、とどまることができるかもしれない境目にいる人たち。どれも一つで1本の映画になる社会問題。群像劇を作り上げるのは難しいチャレンジだったが、一つひとつのシーンを多面的に、瞬発力を込めて表現した」と話す。
最後に呉監督は「人は人によって傷つけられるが、人によって救われる。映画を見終わった時に、自分にとっての幸せって何なんだろうと思いを巡らせてくれたら、うれしい」と話し、映画の成功を祈った。