展覧会「幻の愛知県博物館」が6月30日、愛知県美術館(名古屋市東区東桜1)で始まる。
会場前では「幻の愛知県博物館」のために作った原寸大の「金しゃち」が出迎える
現在、愛知県立の総合博物館はない。県が民間から寄付金を集めて1878(明治11)年に、総見寺(中区大須3)境内の現在の大須公園辺りに博物館を設けた。当時は、単に「博物館」や「工芸博物館」などと呼ばれ株式会社として運営されてきたが、1883(明治16)年に県営化して「愛知県博物館」となった。その後も「愛知商品陳列館」などに名前や場所を変えながら活動を続けた。戦後は「愛知県中小企業センター」になり博物館としての体裁を失う。現在は後継組織として「愛知県産業労働センター」が活動を続ける。
同展担当の学芸員・副田一穂さんは「さまざまなところからかき集めた資料で、あまり知られていない愛知県博物館の歴史をひも解いて当時の活動を紹介する」と話す。「『博物館』では、みそ、しょうゆ、材木、陶磁器、日本画や油絵などの絵画、生きている動植物などあらゆるジャンルを展示。そのほか、はやっている物、売れている物を展示し、業者に見せて商工業の発展につなげるような物もあった。戦後にできた現在の博物館のイメージとは違うことが分かると思う」とも。
展示物は234点。3章に分けて構成する。
1章「旅する金鯱(しゃち)」は、「博物館とは何をどう見せるのか」を天守から降ろされた金しゃちの歴史をたどることで表現する。展示された金しゃちの前で観衆が驚いている姿を描いた昇斎一景の「東京名所三十六戯撰 元昌平坂博覧会」や、1945(昭和20)年の空襲の爆風で吹き飛ばされた金しゃちの鱗(うろこ)の一部や、焼け残りの金を使って作られた金の茶釜なども展示する。
2章「幻の愛知県博物館」は、「金鯱」の展示場所や「植物園」「花園」などの場所、「陶磁器」「薬品」「生糸類」など展示品内容、建物名などを記し全体像が分かる、開幕記念の「愛知県博覧会」の「独(ひとり)案内」(ガイドのようなもの)や、貸し会場としての役割が分かる名古屋の画家グループが開催していた展覧会の写真、当時、手本として紹介した女性の服装写真など、あらゆるものを扱っていたことが分かる資料を展示する。
3章「ものづくりの愛知の力」では、「もし、この博物館が続いていたら」(副田さん)と仮定した内容で、ものづくりに愛知にまつわる5つのトピックを展開する。「朝日遺跡」の出土品、自動車産業前に盛んだった豊田や岡崎など西三河の養蚕のなごり、昭和初期に「欧米に於(お)ける最近流行の陶器」として展示した、モダンで軽く、当時売れ線だったドイツ製陶磁器などを展示する。
会期中、日替わり(51種類)で絵柄が違う展示物にちなんだ記念カードを毎日先着順で配布。レアカード(4種類)も用意する。子どもでも分かりやすいように展示品一つずつにキャッチコピーを添えたり、展示場所を低く設定したり工夫する。
開催時間は10時~18時(金曜は20時まで)。月曜・7月18日休館(7月17日は除く)。チケットは一般=1,000円、高大生=800円、中学生以下無料。8月27日まで。