老朽化が進んでいた名古屋唯一の木造3階建ての建物が現在、再建に向けて動き出している。大須・中公設市場に隣接する同建物は、人通り多い所に面しているにもかかわらず、10年近く放置され老朽化が進んでいた。
現在では建築することが許されていない「木造3階建て」は、戦後2~3年は規制がなかった時代に建設されたものではないかと推定されている。「危険」と判断し、取り壊しを検討していた同建物オーナーの渡邊さん。解体業者とも契約し、取り壊しが1カ月後に迫ったある日、偶然建物の前を当時衆議院議員だった現名古屋市長の河村たかしさんが通りがかった。「古いものを残していこう」と昔から活動を続ける河村さんの目には、単に「荒れた建物」ではなく「文化財として大切にしなければならないもの」として写ったようだ。
その後、建物が取り壊しの危機に直面していることを知った河村さんは、東京から文化庁の調査官を呼びその価値を確認。「河村さんに『古くても大切なものなんだ』と、いろいろと教えてもらった」と渡邊さんは振り返る。そして取り壊しの1週間前に解体作業の中止が決定。再建への道を歩み始めた。
価値ある建物であることはわかったが、渡邊さん夫妻が直面したのは再建に向けた費用の問題。「文化財の価値を優先して、古いままきれいに残そうとすると通常の倍以上の時間とお金がかかってしまう」と渡邊さん。悩んだ結果、「文化財の登録はできなくなるかもしれないが、残して生かすことを優先し、自分たちができる最高の範囲で再建しよう」と改築作業を始めたという。現在は、当時の装飾が残る天井や柱、骨組みなどを生かしたまま新しく生まれ変わった。
「もうこれは自己満足の世界。直すうちにだんだんかわいくなってきた」と渡邊さん夫妻はほほ笑む。「今思えば、壊してしまっていたら人間的に無慈悲なのではと後悔していたかもしれない…」。現在は1階と2階に入居するテナントも決定。1階には、清水口の人気ラーメン店「中華そば 白壁 あおい」の関連ラーメン店が8月上旬にオープンを予定。2階には広島焼きの店が9月にオープン予定だといい、新たな名所として生まれ変わる。
渡邊さん夫妻は現在、この建物の名前を考案している。「一般の方からもネーミングを募集したい」とも。