栄の映画館「名演小劇場」(名古屋市東区東桜2)で2月6日から、映画「十字架」が公開される。公開に先立ち、五十嵐匠監督が来名して会見を開いた。
同映画は直木賞作家・重松清さんの吉川英治文学賞を受賞した同名小説が原作。いじめを苦に自殺した少年の両親や同級生の20年にわたる苦悩や葛藤を描くドラマ。主人公ユウを小出恵介さん、同級生のサユを木村文乃さん、自殺した少年の両親を永瀬正敏さん、富田靖子さんが演じる。
中学2年生の秋、ユウ(小出さん)のクラスメートで幼なじみのフジジュン(小柴亮太さん)が自殺する。残された遺書に親友と書かれていたユウと、その日が誕生日だったサユ(木村さん)は、それぞれ重い十字架を背負いながらその後の人生を歩み続ける。フジジュンの父(永瀬さん)は息子を見殺しにした同級生たちを許そうとはせず、母(富田さん)は子どもの思い出にすがりながら生きていく。
毎日映画コンクール文化映画賞を受賞した「SAWADA」や「地雷を踏んだらサヨウナラ」など、実在の人物の生涯を描いた作品で高い評価を得ている五十嵐監督。劇映画10作目となる本作では、小説の映画化に取り組んだ。
五十嵐監督は「今までずっと実在する人の話を撮ってきたが、だんだんフィクションにも興味を覚えてきた。原作は書店で見つけて、美しい青の装丁と素直でシンプルなタイトルに引かれて手に取った。読んだら涙が出て、重松さんに映画化したいと手紙を書いた」と映画化の経緯を明かす。
その後、映画化までは3年掛かったと振り返る。「多くの映画会社やテレビ局に企画を持ち込んだが、当時は震災後で暗いテーマは避けられていたこともあり、いじめを題材にした映画をやりたがるところは無かった。2年ほどの間は現実に起こったいじめについて調べ続け、シナリオを作っていた。立ち上げまで時間がかかったが、調べる中でこの映画化をやるには責任感が必要だとの思いも強くなっていった。映画は出会いが大事。ロケ地となった筑西市や出演してくれた俳優陣ら、幸せな出会いやリンクがあったから実現した映画。3年という期間は必要な時間だったと思う」と話す。
映画には現実に起こった出来事も多く反映しているという。「フィクションではあるが、重松さんは遺族の方にインタビューして小説を書いている。数あるフィクションの中から僕の琴線に触れたのは、そのせいだと思う。自分も徹底的に調べて、知ってから脚本化したかった。実際にあった出来事、本当に発せられた言葉が作品の中にちりばめられている。とても悲惨なものもあったが、亡くなった子どもたちの叫びのようなものを映画に残したかった」と話す。
最後に五十嵐監督は「この作品は単なるいじめの映画ではない。本の装丁にあったブルーのような、いじめの暗さを突き抜けた青空を撮りたかった。沈殿した泥の部分だけを見ないで、その上澄みを味わってほしい」と話し、映画の成功を祈った。