栄の映画館「センチュリーシネマ」(名古屋市中区栄3)ほかで現在、映画「悪と仮面のルール」が公開されている。主演の愛知県出身の俳優・玉木宏さんが、名古屋で映画の見どころを語った。
同作は愛知県出身の芥川賞作家・中村文則さんの同名小説が原作。実の父から絶対的な悪「邪」となるべく育てられた男が、顔を変え、心の闇を抱えながら、愛に生きようとする姿を描くサスペンスドラマ。中村さんは同作で米「ウォール・ストリート・ジャーナル」の「ベストミステリー10小説」に選出された。壮絶な人生を送る主人公・文宏を玉木さん、主人公が全てを懸けて守ろうとする女性・香織を新木優子さん、テロ組織の青年・伊藤を吉沢亮さんが演じた。メガホンを取ったのは、UVER worldのドキュメンタリー映画「THE SONG」などを手掛けた中村哲平監督。
玉木さんは「倫理について表現することが難しくなっている今の時代に、特殊でダーティーなこの作品がどこまでチャレンジできるのか。監督やスタッフ、共演者と共に、現場でも話し合い、試しながら作った映画」と振り返る。演じた主人公について「彼は邪になり切れなかった中途半端な存在で、心に弱さを持つ人間。だから整形して別人の顔を手に入れて生きていく。さまざまなテーマがある作品だが、彼を動かしたのは香織への思いで、彼女がいるから善悪の間で揺れ動いた。ラブストーリーになるように、最後にある2人の大切なシーンに照準を合わせ、文宏を演じていった」と話す。
原作者の中村さんが撮影現場を訪れた際に「幸せですか」と質問したという玉木さん。「作品の世界が強烈すぎて、作者は幸せな家庭に生まれてこなかった人で、今も幸せではないだろうと勝手に思い込んでいた。お会いすると、とても明るい方で、『本当に不幸せだったらこういう作品は書かないと思う』と話していた」と笑う。「中村さんがイメージし、組み立てた作品世界にどこまで近づけたか分からないが、映画をすごく楽しんで見ていただけたのだと感じた」と手応えを語る。
最後に玉木さんは「善悪はとても曖昧なもので、いたずら心や他者への不快感などは誰しも心の中に抱えている。法に触れてしまえば罪になり、理性でそれを押さえて生きている。葛藤する文宏の姿からは、善悪とは何かという問いかけが観客に届くはず。意外性があり、奥行きのある、静かで強いラブストーリー。140分という長い時間だが、映画館でじっくり作品の世界に浸っていただけたら」と呼び掛けた。