あいちトリエンナーレのあり方検討委員会、あいちトリエンナーレ実行委員会が10月5日・6日、愛知芸術文化センター(名古屋市東区東桜1)12階アートスペースAで、あいちトリエンナーレ2019国際フォーラム「『情の時代』における表現の自由と芸術」を開催した。
同芸術祭では8月3日に「表現の不自由展・その後」の展示中止を決定。その後、同企画の出品作家に対する連帯と展示中止に対する抗議の意を表すため、参加アーティストらが展示の一時中止などを発表。現在も「表現の不自由展・その後」ほか、各会場で一部の展示作品が本来の状態では見られなくなっている。
同フォーラムは、あいちトリエンナーレ2019が直面している表現の自由に関する問題について、世界的事例を紹介しながら議論し、今回のトリエンナーレが目指したものや今後に向けた課題などについて話し合うための企画。大村秀章愛知県知事(5日)、津田大介芸術監督、キュレーター、アーティスト、公募で選ばれた各回約100人が出席し、「表現の自由と芸術、社会」(5日)「『情の時代』における芸術の困難と未来」(6日)をテーマに議論が行われた。
6日は上智大学の林道郎教授を司会に、第1部「プレゼンテーション」、第2部「ラウンドテーブル・ディスカッション」の2部構成で開催した。
プレゼンテーションに登壇した津田芸術監督は、今回のトリエンナーレのテーマ「情の時代 Taming Y/Our Passion」の狙いをいくつかの作品を提示して解説。「表現の不自由展・その後」の展示中止、参加作家たちのボイコットの経緯を説明した。津田芸術監督は「抗議の電話、メールは現在も続いていて、一部作家たちは展示中止、展示変更を続けている。日々、展示の内容や参加するアーティストが変わっている状況。ある人には、あいちトリエンナーレを舞台としたパフォーミングアーツの場所にかわっていると言われた。情の時代というテーマに応答して、このトリエンナーレという舞台でどのように行動するのかがアーティスト一人一人に問われている」と話した。
「表現の不自由展・その後」の再開については「今も(この会場の)裏側で協議をしている。妥結できるラインは見えているが、(不自由展実行委員会とトリエンナーレ実行委員会に)互いに譲れない一線があり、予断を許さない状況。感情のもつれが展示中止から今に至るまでにたくさんある」と話し、「妥結すれば全作家が戻ってくるが、しなければトリエンナーレの終了も起こりうる」と厳しい表情で語った。
参加アーティストの1人、高山明さんは、展示の再開を目指すアーティスト有志によるプロジェクト「ReFreedom_Aichi(リフリーダム・アイチ)」のさまざまな取り組みを紹介。8日から抗議、意見の電話をアーティストが直接受ける「Jアートコールセンター」(050-3177-4593)を開始することを発表した。同センターでは、講習を受けたアーティストら30人以上が、毎日12時から20時まで電話応対する。
高山さんは「今回展示が難しくなった背景には電話による抗議運動がある。対応する県職員が大変な状況だったことは僕らも聞いていたので、アーティストがその声を受けようじゃないかという率直な、ナイーブな感情からスタートした。プロジェクトには弁護士も参加してもらい、公共サービスの在り方を再検討したいという思いもある」と経緯を話した。「本当に怒っている方、疑問を持っている方、自分の意見を言いたい方に対して、アーティスト自らが答えたい。電話はパブリックでもあり、プライベートでもあるもの。そこに新しい対話、相互理解の可能性が成り立てばいいと思っている」と呼び掛けた。同センターはトリエンナーレ会期中の14日まで開催予定。
第2部では林教授を進行役に、キュレーター、アーティストらが検閲、公的資金、美術展の在り方などについて議論。後半は会場からの質疑応答を行った。会場からは、アーティストの表現の自由を様々な立場の人に受け入れてもらうための態勢作りの必要性、展示中止になった作品の内容に関する意見などが出され、パネリストが見解を述べた。
愛知県は現在、表現の自由の理念を示す「あいち宣言(プロトコル)」を作成中。5日にReFreedom_Aichiが中心となって作成した原案を公開した。今後、パブリックコメントなどを参考にしながら、会期末14日の採択を目指している。