国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2013」の記者会見が7月10日、愛知芸術文化センター(名古屋市東区東桜1)で行われ、開幕まで1カ月となった芸術祭の概要などが発表された。
ベケットの代表作「しあわせな日々」を新訳で上演する「ARICA」
「あいちトリエンナーレ2013」は「揺れる大地-われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活」をテーマに、8月10日~10月27日の79日間にわたり、34の国と地域から122組のアーティストが参加して行われる。愛知芸術文化センター、名古屋市美術館や長者町、納屋橋などの名古屋市内各地と、岡崎市内(東岡崎駅、康生、松本町)が会場となる。現代美術76組、パフォーミングアーツ15組をはじめ、多彩な作品の全容が明らかになった。
象徴的なテーマ展開として、岡崎市出身で東日本大震災を直接体験した志賀理江子さんの岡崎シビコ6階での展示や、願い事やメッセージなどを短冊に込めて木に結ぶオノ・ヨーコさんの参加型作品「ウイッシュ・ツリー」の県内各地での展開などが発表された。何組かの海外アーティストは被災地を訪問。チリ出身のアルフレッド・ジャーさんは廃校になる中学校から黒板を譲り受け、名古屋市美術館でのプロジェクトを進めている。イギリスを拠点に活動するブラスト・セオリーさんは気仙沼で漁師にインタビューを行った。名古屋の街に漁船を運んで展示するという。
宮本佳明さんは福島第1原発の図面通りに、愛知芸術文化センターの壁や床にテープを張り、原発の大きさを表現する。ゲストとして登壇した宮本さんは「建築家として震災後、東北と深く関わることになった。復興はまだまだ進んでいないが、道筋は見えてきている。今、一番気になるのが福島の原発。芸文センターの中には原発の3号機が丸々入る。テープを張って原発建屋の断面線を表し、原発の形を浮かび上がらせる。都心にこういうものがあったらどう思うか、身近に原発のことを考えてもらいたい」と話した。
五十嵐太郎芸術監督は「今回のテーマは震災からではあるが、アーティストにはそれぞれの国や地域、文化から考えてもらいたいと伝えていた。動き出してみて、こちらが考えていなかったような受け止め方、解釈が出てきて驚いている。美しい、楽しいという以外に、アートを通じて社会を考えるきっかけになることも3.11以降重要になっている。結論を強制するようなものではなく、考えるきっかけになればと感じる。作品を通じて体験してほしい」と話す。
パフォーミングアーツは、舞台芸術と視覚造形美術を結ぶ作品、テーマに沿った作品、サミュエル・ベケットにまつわる作品をポイントとしたラインアップが並ぶ。この日はベケットの代表作「しあわせな日々」を新訳で上演するユニット「ARICA」の安藤朋子さんがサプライズゲストとして登場。「ベケットといえば日本では『ゴドーを待ちながら』を思い浮かべる人が多く、本作はなかなか上演されていない。上演する場合でも1967(昭和42)年の翻訳に基づいている。今、ビビッドなベケットをやりたいと思い、新たな翻訳に取り組んでいる。面白いものになる予感がしている」と抱負を語った。
今回のトリエンナーレでは、建築の視点を取り入れたさまざまな企画も用意されている。県内各地の建築物を解説し、建築の視点から街の魅力を再発見してもらうガイドブック「あいち建築ガイド」を作成。普段一般公開されていない建築物をガイドツアー形式で紹介する「オープンアーキテクチャー」も実施する。
五十嵐太郎芸術監督は「開幕を1カ月後に控え、それぞれの作家が現場で作品制作に取り組んでいる。芸術文化センターの展望回廊のダン・ペルジョヴスキさんの作品や、伏見地下街の打開連合設計事務所の作品、長者町のリゴ23さんの作品など、すでに見られるものもある。普段、美術館に行かない人にも、いつもと違うことが起きていることが分かるはず。空間、場の面白い使い方が提案され、慣れ親しんだ場所が全く違う形で見える。それを楽しんでいただきたい。そして、興味を持ったら美術館のバリエーションに富んだ作品を楽しんでほしい」と話し、多くの来場を呼び掛けた。
開幕までには藤森照信さん、ヤノベケンジさんの作品設置、会場をつなぐベロタクシーの出発式や公式ガイドブックの発売などが予定されている。詳細は公式ホームページで随時発表。