特集

「生活者の気持ちがベースに」
名古屋流最新LOHAS事情

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■「LOHAS」とは?

 Lifestyles Of Health And Sustainabilityの略で、「健康で持続可能なライフスタイル」の意味。大量生産や大量消費されるものより、質が良く、健康面にも地球環境にも配慮されている商品やサービスを選ぶ価値観など、人と地球環境の双方に優しいライフスタイルとして世界中で注目されている。

■ 愛知万博が培った「名古屋流」ロハス

 「名古屋のロハスは、メディアからの情報が先行して一気に火がついたわけじゃない」と語るのは、自称「ロハス・ウォッチャー」の坂野旬さん。NPO法人NaYOGAを設立し、名古屋ロハスの立役者として、今や地元メディアにひっぱりダコの人物である。

  「生活者の意見が反映されながら、じわじわとロハスが浸透していっているのが、東京やそのほかの地域との違いでは」(坂野さん)。特に象徴的な動きだったのが、昨年行なわれた 「愛・地球博」(2005年日本国際博覧会)。万博では「自然の叡智」をテーマとして、地元の人たちを中心に、来場数が約2,200万人を超える大成功を 収めた。

 地味といわれた万博のテーマだが、平均14回というリピート率の高さが示すように、そのメッセージをそれぞれが感じ、積極的に受け入れていたようだ。「万 博村の会」の柴田麻美さんもそのひとり。185日間という会期中、50回以上も通ったという彼女は、万博でできた交流の場を継続したいと思い立ち「万博村 の会」を結成。現在は万博の跡地に建設される愛・地球博記念公園(愛称=モリコロパーク)に対し、市民の意見を取りまとめている最中だという。「あれだけ のものを全部潰すなんてもったいない。自分たちの楽しみは、自分たちの意見で作りたいから、行政任せにしないで常に意見を言ってほしい」。

 万博は、多くの 人々に対して、暮らしに対して前向きに関わろうとする意識を呼び覚まし、静かに浸透させていった。名古屋ロハスの土壌は、こうしてしっかりと育まれたのだ。

NaYOGA

■ 松坂屋本店大改装の背景にあるものは

 2006年3月、松坂屋本店北館は「快適な生活の場」をコンセプトとした総合テーマ館として生まれ変わった。北館がオープンして以来、実に33年ぶりとなる大改装である。もともと北館は、中部地区最大のインテリア館として建てられたが、リニューアルに際しては、生活雑貨や化粧品、食品なども併せて揃えられた。本館・南館にある化粧品や食品コーナーとは完全に切り離した、新たな「北館ブランド」の誕生である。

 「『快適な生活とは』を考えていくとインテリアという枠を超え、ライフスタイルまで広がった。自然にロハスを提案する場になった」と話すのは、1階化粧品フロア(スロービューティスクエア)の出店交渉を担当した立松さん。「スロービューティスクエア」では、フランシラやAPIVITAなど12の自然派化粧品ブランドを扱っている。大手百貨店としては、これまで大きく取り上げることのなかった分野だ。

 これらの化粧品のセレクトは、販売員や消費者の意見を重視したという。「既存のメーカーや商社などから情報を集めるのは簡単。しかし、データには表れないような消費者の声をきちんとすくい上げることが大事だと考えた」。立松さんは、自ら全国を飛び回り、情報収集を行なう。「スローコスメ」は、そうした中でたどり着いた答えだった。そして、その姿勢は売り場のイメージや店舗選び、商品構成にまで及び、「結果的に」これまでの手法を一新させることとなった。例えば、什器もそのひとつ。通常はメーカーが什器を持ち込んで管理しているが、北館では百貨店側が用意した什器を使うことに。「今まで通りだと、通常2~3年は入れ替えがない。メーカーの都合ではなく、常にお客様の意見をすぐに反映できる場にしなければと思った」(立松さん)。

 ロハスは、単純に「いいよね」と感じるものを指すのだろう。販売する側の都合ではなく、常に生活者が主役となること。松坂屋はそのことにいち早く気付き、百貨店の体質や仕組みそのものを考え直すきっかけにした。

松坂屋名古屋本店

■ 気軽にマクロビオティック

 最近はオーガニックカフェ以外でも玄米菜食や有機野菜を使ったメニューを出すカフェやレストランが増えてきた。中でも注目されているのが、玄米や旬の野菜を中心にした料理の「マクロビオティック」。昨年11月より西区の老舗ホテル「ウェスティンナゴヤキャッスル」でも同メニューの提案を開始するなど、様々な分野で注目されている食事法だ。

 マクロビオティックとは、大きな視点(マクロ)から生命(ビオ=バイオ)をとらえる方法(ティック)という意味で、「身土不二(住んでいる土地のものを取り入れる)」、「一物全体食(食材を丸ごと使い切る)」、「陰陽調和(食物の陰陽バランスを考える)」という考え方が基本となっている。「身土不二」とは、「身体と土(環境)は元をただせば同じものである」という意味で、自分の住んでいる土地で採取される食材を中心に取り入れることで、体内のバランスも整い、同時に自分の周りの環境や自然にも関心が高まっていくという考え方。

 車道にある中国茶カフェ「marica(マリカ)」では、昨年末から毎週火曜日にマクロビオティックランチを始めた。オーナーの丹羽さんが料理教室に通ったことで好きになったマクロビオティックの料理を、ランチとして自身の店でも始めたいと思い、マクロビオティックシェフの廣瀬さんに相談して企画した。同店のランチは口コミで評判が広がり、毎回予約でいっぱいになるほどの人気だという。

 同店のランチのアドバイスをしたマクロビオティックシェフの廣瀬さんは、「marica」の他に、カフェ「momo」で料理教室の開講やメニュー提案を行うほか、イベントや地域の集まりなどにマクロビオティックのケータリングなどを提供している。それまでは、専門店などでしかマクロビオティックの料理を食べる事ができなかったが、「誰もが気軽にマクロビオティックを知ってもらえるきっかけを作りたい」と思い、どこへでも出向いて料理を作る事にしたという。

 マクロビオティック人気の背景には、このように名古屋市内でもランチや1DAY料理教室などで気軽に体験できるようになったことが影響しているようだ。 

marica

■ カフェなどがコラボレートして仲間作り

 丸の内のサンドイッチカフェ「momo」では、マクロビオティック料理教室をはじめとした、ロハスをテーマとしたイベントを開催したり、有機野菜やテンペ(大豆発酵食品)を使ったサンドイッチメニューを開発したりと、様々な形でロハスを取り入れ紹介している。どのイベントもオーナーの杉村さんが消費者の目線から面白そうと感じたものばかりを企画しているという。

 また、サッカーが好きでブラジルにもサッカー留学していた経験のある杉村さんが、カフェで気軽に語学の勉強も出来ないかと思い英会話スクール「エイミーズ」に声をかけ講師を派遣してもらい、同店内で「英会話カフェ」もスタートさせた。この企画は「momo」と「エイミーズ」の双方で開催されている。エイミーズのオーナー・青山さんもロハスの考え方に共感したことから、エイミーズ英会話カフェではコーヒーをフェアトレードのものにしたり、ロハス関連の雑誌やヨガの本、ヨガマットなどを置くなどしているという。また、「エイミーズLOHASクラブ」を作り、ロハス講座を開講したり、オーガニックレストランでの食事などを楽しんでいる。

 このように消費者の視点に近いカフェなどが、様々なサービスとコラボレートして広がっているのも名古屋のロハスの特徴だ。

momo cafe

■ ヨガブームにみる、30代女性とロハスの関係

 「ロハスが普及した背景には、ヨガブームが大きく関わっている。マドンナなど海外セレブの影響もあり、日本でも多くのメディアに取り上げられ、30代前後の女性を中心に一気に火がついた」(前出ロハスウォッチャーの坂野さん)。

 名古屋でもブームが高まる2005年末には、市内に約25店のヨガスタジオが誕生、中でも情報発信エリア・中区には10店のヨガスタジオが集中するなど、その影響の大きさがうかがえる。

 「入会者の多くは、ヨガを始めるきっかけがダイエットだと答えている」と語るのは、久屋大通にあるヨガ&ピラティススタジオ「ENERGY BODY」のインストラクター、yokoさん。「スタジオに通ううちに(ダイエットよりも)ヨガの楽しさにハマっていくみたい。ヨガの考え方はロハスに直結するので、ハマればハマるほど食生活やライフスタイルを気にするようになってくる」。

 このように、女性たちは「ほんの少し」時間もお金も頭も体も使い、美しくなるための努力をする。それが彼女たちの大好きな「前向きな自分」であり、そこにぴったりと符合したのが「ロハス」という価値観だったのだろう。これだけモノの多い世の中で「選択する」という行為は、30代女性の自尊心をくすぐる。だから、癒しブームほどハジけないし、広がらない。しかし、彼女たちが40になり50になっても、そこで得た価値観だけは残るはずだ。

ENERGY BODY

■ ロハスブームのその先は…

 「名古屋ロハス」は、若い世代が主導となり、地域的な広がりへと発展している。

 2005年10月に設立された「コミュニティ・ユース・バンクmomo」は、東海地方初のNPOバンクとして注目を集めているが、この活動を支えているのも20代~30代の若者たちだ。NPOバンクとは、人々から募った出資金を、社会問題を解決するNPOやNGOの活動に対して融資し、応援する仕組み。アーティストの坂本龍一さん、小林武史さん、櫻井和寿さんらもap bankというNPOバンクを興していることもあり、若い世代の関心度が高い。

コミュニティ・ユース・バンクmomo
 ロハスは充分、人々の暮らしに浸透したと言えるのではないだろうか。では、今後はどうなるのか。「ロハスという言葉はいずれ忘れ去られるのではないか、という質問をよく受けるが、じっくり考えながら浸透していったロハスは、言葉こそ消費されていっても考え方は形を変えながら残っていくのでは。それこそが、持続可能なロハスの形だと思う」と坂野さんは話す。

 大手メディアや代理店による大規模なプロモーションがベースとなって広まるのではなく、消費者や経営者がそれぞれの感性を基にマイペースに動くことによって生活に浸透していく「ロハス」が名古屋の特徴といえるのだろう。
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