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全国から注目される「名古屋」の音楽シーンと
それを支える多彩な音楽イベントの関係

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そもそも「ライブサーキット形式」とは?

 ライブサーキット形式のライブは、多数のライブハウスやクラブを一斉に使いさまざまなアーティストがライブを行なうもの。観客は1日のタイムテーブルと各会場の共通パスを手に、会場間をハシゴしながら思い思いのアーティストのライブを楽しむ。いわゆる街そのものが音楽フェスの会場になるようなイメージとなる。

同形態の代表的なイベントとしては、アメリカ・テキサス州オースティンで毎年3月に行われる、世界最大規模のライブサーキットイベント「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」。世界各地から多くの音楽ファンや音楽関係者が集う「音楽の見本市」と言われる同イベントでは、毎年1,500組以上のバンドが集まり、それを楽しみに世界中から集まる観客は約15,000人を超える。期間中に使用される会場は約70カ所にものぼる。


新人バンドを紹介する「ショーケース」的な要素が多分にある、この「SXSW」にはレコード会社や音楽関係者、メディア関係者なども数多く来場し、熱い眼差しを注いでいる。そこでの評価が彼らの今後の活動を左右することも多々あるため、多くのバンドが出演を望み、昨年は約12,000ものバンドからの出演依頼があったという。

SXSW
日本でも数年前から同形式でのライブイベントが各地で行なわれるようになってきている。中でも2000年から毎年10月に開催されている、大阪のFM局「FM802」主催の音楽イベント「MINAMI WHEEL(ミナミホイール)」は日本国内のライブサーキット形式のイベントとして有名なもののひとつになっている。

初回開催から順調にスタートしつつも、問題点も浮上

  以上の2つのイベントを参考にし、「名古屋でもライブサーキット形式な多ジャンルのイベントを」と企画されたサカエスプリング。さまざまな関係者の思いが集まり動き出した第1回目、実際の開催日までの道のりは決してスムーズではなかったようだ。

「2006年に初めてイベントを開催した時は、スタッフも観客も手探り状態だった」と振り返るのは、同局制作担当の久保田さん。「1回目は、今と違い1日のみの開催であったにも関わらず、初めてのことばかりで人手も足りず、とてもバタバタしていた。パスなども局内のスタッフによる手作りで、とにかく大変だった」と苦笑い。

  当日はあいにくの雨の中、約50組のアーティストが6会場で精一杯の演奏を繰り広げた。フタをあけてみると「傘を持ってパスを首から下げた観客たちが、栄の街をあちこち歩いていて、とても楽しんでもらっている姿が多く見受けられ、ほっと胸をなで下ろした」と話すのは、初回から告知物の制作を中心に企画スタッフに加わっている、ぴあ中部版編集部の阿部さん。しかし「まだこちらが用意した範囲内で遊んでもらっている印象はあったかもしれない。実際にイベントを開催しないと見えてこない問題点はとても多く、次回への足がかりとして得るものは多かった」とも分析。

  初回の反省点などを踏まえ企画された、翌年の「SAKAE SP-RING 2007」は、イベント開催日数を2日間に拡大、8会場で約100組以上のバンドやアーティストが出演した。また、この年からスポーツタオルなどのオリジナルグッズの販売も開始。各グッズとも好調な売り上げを見せたという。「イベントで遊んでくれる観客サイドの意識も変わったようだ。初回に比べ、それぞれのペースでより自由に遊んでくれているように見えた」と久保田さん。

 また、「ライブとライブの合間には、カフェでお茶をしたりショッピングをしたりと、街中で行なうイベントだからこその楽しみ方、動き方があるのでは」と、栄エリアの飲食店とのタイアップも同時期から展開。栄エリアの地図を作成し、飲食店などをマッピングして配布した。しかし、実際に掲載された店舗は、夜に営業しているような居酒屋やレストランなどが数を占めており、ライブの合間にファストフード的に利用できる店舗や、お茶だけを楽しめるような実用的な店舗の掲載が少なく、そこでの問題点も浮上。2008年度の開催に向けて、さまざまなツール面、動線面での反省と開発、調整が進められていった。

大切なアーティストと会場のセレクトは、最も気を遣うところ

 音楽イベントで、何と言っても重要なのはアーティスト選び。各レコード会社から「新人・イチオシアーティスト」の音源が同局内に集められる。今年の選考会で集まったのは約200曲。それらを外部スタッフなどの意見も織り交ぜつつ、局内で選考会を行う。まる1日ですべての音源を全員で聴くという選考会は、「全スタッフがヘトヘトになる」というが、やはり気の抜けない作業だ。

アーティストの選考基準について、40人近くいる選考メンバーの1人・阿部さんは「名古屋のイベントなので、なるべく多くの地元アーティストを選出したいと思っている。話題性のある人、音楽性の高い人などの中から、いろいろな面で偏りがないように注意して選出している」と話す。そうした中、今年は約150組のアーティストが出演を決めた。

 
地元・名古屋からは、the ARROWS(アロウズ)、KAME & L.N.K(カメアンドリンク)、カルテット、iGO(アイゴー)、竹内電気、soulkids(ソウルキッズ)、トコロテンスライダー、24−two four−(トゥーフォー)、プリングミンなど30組以上の注目バンドが出演。そのほか、青山テルマ、APOGEE(アポジー)、AYUSE KOZUE、オレスカバンド、□□□(クチロロ)、リサハリム、WISE(ワイズ)、Qomolangma Tomato(チョモランマトマト)などといった全国的に注目を集めているバンドやアーティストも多数出演を決めている。


会場も、「観客が移動しやすい距離感を保ちつつ、栄エリアのライブハウスを紹介する意味でも、より多くのライブハウスやクラブを会場として設定したい」(久保田さん)と、今年は数を10会場に拡大。中には、栄の中心地から少し離れた場所に位置する「CLUB Zion(クラブザイオン)」や、ビジュアル系バンドのライブハウスとして人気を集めている「HOLIDAY NAGOYA(ホリデイナゴヤ)」なども名を連ねている。「普段あまり行かない会場にも、抵抗なく行くことができて、新たな発見をしてもらうのもサカエスプリングの魅力の1つ」とも。

楽しみ方は人それぞれ。今後の展開は…

 「ここ数年の『野外フェスブーム』から、観客の多様化はさらに広がったようだ」と阿部さん。「栄のタワーレコードでは、オリコン・チャートの上位にランクインしているCDと、インディーズのCDを一緒に買っていく人も多く見受けられるようになってきた。昔は『このジャンルしか聴かない』と言っていた人も多かったが、今は違う。元気な名古屋の音楽シーンは、そうした土壌に支えられている」とも。


  サカエスプリングの観客は、10代~20代の若者が中心であるため、参加費も2デイパスポート=5,000円、1デイパスポート=3,000円と価格を抑えた設定にしているという。「好きなアーティストはもちろん、知らなかったアーティストともこれを機会に新しい音楽の出会いをしてもらいたい」と、仮にイベントのことを知らずに栄に来ても気軽に参加できる手頃な価格に。今年は約5,000枚の販売数を見込んでいる。

 「イベントの面白さは、イベント自体の『遊び心』。それに付随する枝葉でイベントらしさが演出される」と話す久保田さんは、「イベントは『面白い』の積み重ねで成長していく。体力がいることだが、ゆくゆくは、メディア間の隔たりなどがなく名古屋が1つになれるような、音楽的な文化の底上げになるようなイベントにするべく頑張っていきたい」と意気込みを見せる。今年の開催は、5月31日、6月1日の2日間。

SAKAE SP-RING 2008

盛り上がりを見せるそのほかの名古屋周辺野外フェス

栄の街中を使ってライブフェスティバルを行う動きは、一段と加速している。その1つとして上げられるのは、栄ミナミ地域活性化協議会が主催し、栄3丁目周辺(通称=栄ミナミ)一体で地域の防犯、浄化、美化、活性化を目的に、昨年から開催されたイベント「栄ミナミ音楽祭」。路上や公園などを使い、路上ライブを中心とした「無料イベント」となるため、前述のサカエスプリングよりは、ファミリー層も視野に入れたイベント構成が特徴。

栄ミナミ音楽祭‘08
 4月には愛知県吉良町で「日本一早い野外フェス」として「Rock on the Rock’08(ロックオンザロック’08)」も開催された。今年で4回目を迎えた同イベントは、より「コアな音楽ファン」に向けたバンドが多数出演。今回からは開催日数も1日から2日間に拡大し、大盛況のうちに終了した。

Rock on the Rock’08
  5月初旬には、栄の中心地からほど近い「鶴舞公園」で、「知る人ぞ知る」名古屋のバンドやミュージシャンが出演する地域密着型のロックイベント「鶴舞ロックフェスティバル」が毎年開催されており、今年で11回目を迎える。

  また9月下旬には愛知県・日間賀島でも自然派思考の野外フェス「海と島から」の開催が控えている。同イベントは昨年からスタート。今年正式に第1回目を迎えるというまさに「生まれたて」のイベントだ。



海と島から 各イベントともそれぞれまったく違った特色を打ち出しているにもかかわらず、どのイベントにもファンがしっかりと付いており、名古屋の多彩な音楽的土壌が見受けられる。

ますます期待したい、今後の名古屋音楽シーン

 名古屋周辺には、上記に記したイベント以外にもまだまだ多くのイベントが存在しており、そこにはまさに多彩な、オリジナリティ溢れるバンドらが出演している。そうした広がりのある音楽シーンが、全国から熱い注目を浴びている理由とも言える。

CDなどの音楽ソフトなどの売り上げが低迷している昨今、その動きと反比例するかのように野外フェスなどの音楽イベントへの参加人口は年々増加している。これは、ネットなどで簡単に音楽が買え、デジタルに依存した世の中になってきている反動とも見て取れる。人々は、音楽を楽しむ上でも人間同士の生身のコミュニケーションを必要としているのかもしれない。

名古屋周辺の音楽的な動きも、こうした全国的な動きを反映している。これらの流れが一過性のものではなく、人々のライフスタイルの中に今よりもますます「音楽」が組み込まれることで、名古屋の土壌はより育まれていく。名古屋からの、より多くの多彩な才能の輩出に今後も期待がかかる。

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